いつもと同じ時間。
いつもと同じ人ごみ。
いつもと同じ電車。
そんないつもと変わらない日常が、楽しみになったのはいつからだったか。
毎朝同じ時間に起きて、同じ時間に家を出て駅に向かう。
判を押したような生活に生真面目さが出ているとよく言われるが、習慣というものは一度崩すと元に戻す為に倍の力が必要になる。
その労力を考えると、それこそ無駄な事だ。と、手塚は思っていた。
いつも通り。それが一番。
ただ、この変わらない日常に大きく変化をもたらす出来事がこの先待っているとは、この時の手塚には気付く術もなかった。
波及効果 〜 T.Side prologue
「国光?」
ホームのいつもの場所でいつものように電車を待っていた時、背後から声をかけられ振り向いた。
「わぁ!やっぱり!久しぶり〜!」
「―――、か?」
「あ、酷い!忘れてたでしょ?!」
「・・・そんなはずないだろう」
「む。その間が怪しい」
忘れていた訳じゃない。
振り向き様に答えられなかったのは、すっかり見違えるくらい綺麗になっていた幼馴染に、思わず息を呑んだから。
それでも、変わらぬ口調、変わらぬ雰囲気、変わらぬ笑顔に、久しぶりだという事をまったく感じさせない。
手塚は思わず頬が緩んだ。
「国光、いつもこの電車なの?」
「あぁ」
「そっか。今まで会わなかった筈だわ〜。私もう一本早いので行ってたから」
「今日は良かったのか?」
「・・・・・・うん」
「・・・そうか」
何でもハッキリ言うらしからぬ歯切れの悪い返事に疑問を持ったが、それを追求するには会っていなかった時間が邪魔をした。
それは、幼馴染とはいえ気軽に踏み込めない空白の時間だった。
しかし、沈黙はほんの一瞬。
は「あ、そうそう!」と気まずくなりかけた雰囲気を一蹴して笑顔になり、今までの事をあれこれ話し始めた。
思いがけない再会を果たしはしたものの、それだけ。別にその後何の約束をした訳でもなかった。
しかし次の日も、まるで今までずっとそうして来たかのように違和感なくと会い、一緒の電車に乗って通学をする事になった。
一緒と言ってもが先に降りてしまうのだが、15分足らずの短い時間が、とても楽しい一時だった。
共通の話題。共通の思い出。共通の友達。そして今の、お互いの知らない学校の事まで。
話は次々に出てきて、今まで会えなかった時間を埋めるかのように尽きる事がなかった。
「あ、もう着いちゃった。じゃあお先に!」
「・・・あぁ」
人の波に乗って電車を降りていくの後姿を見送るのも何度目になっただろうか。
手塚は、人ごみに見え隠れして遠ざかっていく彼女の姿から目を逸らす事が出来ず、その上毎朝の15分だけでは物足りず、どこか寂しささえ感じている自分に気がつき驚いた。
(・・・俺は―――)
いつもの日常に、小石が1つ投げ込まれた。
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