いつもと同じ時間。
いつもと同じ人ごみ。
いつもと同じ電車。
そんないつもと変わらない日常が、楽しみになったのはいつからだったか。
アナウンスと共に滑るようにホームに入ってくる電車。前から3両目の一番前のドア。
いつも決まってこの車両に乗るのは、部活の仲間がいるから。
そんな繰り返しの日常を過ごすのも、もう何年になるか。
朝からあの真面目な顔を見ると何故か落ち着く。それほど長い付き合いだった。
ただ、この変わらない日常に大きく変化をもたらす出来事がこの先待っているとは、この時の不二には気付く術もなかった。
波及効果 〜 F.Side prologue
「えぇ〜!?落ち着く!?俺は逆に落ち着かないけどにゃぁ〜〜」
そう話すと、不二の隣で同じように電車を待っていた菊丸は、今思い描いた人物のように眉間にシワを寄せた。
「フフ、英二はいつも怒られてばかりだからね」
「あ〜!どういう意味だよそれ〜〜!」
落ち着かないと言いながらも同じ車両に乗ろうとするのは、気心知れた仲間だから。
「そんな照れ隠しなどお見通しだよ?」と言わんばかりに笑っている不二に「ちぇ〜」と悪態をつく菊丸。
いつもと同じように軽口を叩きあっていると、いつもと同じように電車が止まり、いつもと同じようにドアが開き、何人かが降りてくる。
この時間帯は学生が多く、様々な学校の制服が目に映る。
菊丸は時々「あ、あの子可愛いくにゃい?!」などと話しかけてくる事があったが、不二は何故かどの子を見てもほとんど興味を持てなかった。
「不二が本気で誰かを好きになる事なんてあるのかにゃぁ〜」と、いつも何の反応も示さない不二に対し、冗談半分本気半分で言われた言葉。
(今はまだ、テニス以外に本気になれそうな何かを――誰かを、見つけられないだけ)
でも不二自身、そんな風に本気で誰かを好きになった自分の姿を想像できずにいた。
しかしその時。
不二の目に何故か不意に飛び込んできた1人の人。
その彼女は、少し微笑みを浮かべながら真っ直ぐに前を見つめていた。意志の強そうな瞳。一瞬視線が交差する。
不二はその瞬間、心臓が高鳴ったのを自覚した。
しかし、当然ながら何事もなかったように自分の横を通り過ぎ、歩いていった彼女。
思わず振り返った不二だったが発車のベルと菊丸が自分を呼ぶ声に我に返り、急いで電車に飛び乗った。
「も〜何やってんだよ不二〜〜!」
「ゴメン」
「らしくないにゃ〜ボーっとして〜。ほらコッチコッチ!おっはよ〜手塚〜」
「あぁ、おはよう」
「おはよう」
菊丸に引っ張られるように奥へと連れて行かれ、部活の仲間――手塚と無意識にいつもの挨拶を交わす。
電車の加速の振動に合わせるかのようにどんどん早くなる鼓動を感じ、不二はそんな自分に戸惑った。
(・・・見かけない子だったな。また・・・会えるかな)
いつもの日常に、小石が1つ投げ込まれた。
2人の日常に投げ込まれた小石。
石は穏やかだった水面に幾重にも波紋を描く。
2つの波紋は重なって打ち消しあうのか。それとも綺麗な円を描くのか――。
手塚Side
不二Side
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