「あ、あの皆さん――――今日は本当にありがとうございました」

持参した料理もケーキも大好評で見る間に無くなって、クリスマスパーティーも大いに盛り上がった。そろそろお開きかという頃に、改まって1人1人をきちんと見つめ、そう言って頭を下げる

「クスッ、そんなお礼言われる事してないよ?」
「そうだにゃっ!・・・それに大体不二は抜け駆けしすぎ〜〜〜〜!!ドレスアップしたちゃんのエスコート役だけだってずるいってのに、ホッペにチューまでしちゃってさっ!!」
「そーっスよ」
「頬くらいで何騒いでるの?ホントは口にしようと思ってたのに」
「ふ、不二、そこらへんに・・・」

真っ赤になってるの隣で憮然としていた手塚は、ふうっと1つ溜息を漏らすと、

「それは絶対に止めてみせる」

そう言い切ってますますを赤くさせた。それでもとても嬉しそうなを、皆微笑ましく、そしてちょっと切ない思いで見つめていた。
大好きな、そして自分達では決して引き出す事の出来ないその表情。それはすべて、隣にいる手塚なくしては輝かない事も、もう充分、分かりたくないくらい分かっていた。

(手塚になら――――)

そんな思いも皆一緒だった。
今までなんだかんだと2人になるのを邪魔してきたから、今日はせめてものお詫びのつもりのプレゼントであった。










magic 〜4th










「ご馳走さまでした〜!」
「っス」
「メリークリスマスっ!」
「本当に大勢で押しかけてしまいまして、スミマセンでした!」
「ありがとうございました」
「よいお年を〜〜〜!―――って、そりゃまだちょっと早いか」

思い思いの挨拶で不二の家を後にするメンバー達。そして皆の背中を見送ってもう1度頭を下げる
そんな様子を優しい瞳で見つめていた手塚は、スッとの手を握り、そのまま自分のコートのポケットに入れ、促すように歩き出した。






キンと張り詰めた冬の空気は肌に刺さるように痛かったが、繋いだ手はとても暖かかった。
やっと2人きりになれたが、暫くお互い話もしなかった。
今はただ、この沈黙が心地よく感じられ、それを楽しむかのように、ゆっくりとクリスマスイルミネーションを眺めながら歩いていた。

(やはり、2人で見る方が鮮やかに映るな・・・)

「去年よりずっと綺麗ですね・・・やっぱり」

隣を歩くに目をやると、穏やかな笑顔を浮かべつつ、それらを眺めていた。
まるで自分の考えが聞こえたかのようなタイミングでそうつぶやいた
手塚は、同じ気持ちでいてくれる事の喜びを、静かに噛み締めていた。

「・・・結局あいつらには借りを作りっぱなしだったな」
「?そうなんですか?」
「そのドレスも―――本当に良く似合っている。不二のセンスは流石だな」
「ほ、ほんとですか?・・・でも部長、目が合った時逸らしたから、やっぱり似合わなかったんだって、思いました・・・」
「―――――――まともに見られなかっただけだ」

そう言うと顔を赤くしてまた視線を逸らす手塚。しかしもう不安にはならない。同じように顔を赤くしながら、は言葉を繋いだ。

「でも、素敵ですよね、こういう仲間って・・・私本当に自分の周りの人に恵まれたって思います。皆さん本当に楽しくって、優しくって―――――て、あれ?ここは?」

いつの間にか知らない通りを歩いていた事に初めて気が付いた。

「あ・・・・」

キョロキョロと周りを見回していたの目に飛び込んできたのは、ひっそりとした教会。
クリスマスイブという事もあってか、沢山のキャンドルで淡くライトアップされていてとても幻想的な光景だった。思わず息をのむ。

「うわぁ・・・・・・・キレイですね・・・・・・」
「ここは、今日は一般にも開放されているらしい・・・気に入ったか?」
「え?――――それじゃあわざわざ?」
「・・・あぁ」

そういう手塚の頬がまた少し赤かった事に気が付いたは、繋いだ手にそっと力を込めた。手塚もそれに答えるように握り返すと、そのまま2人で開け放たれた教会へと入って行った。






教会の中はシンと静まり返っていた。
外と同じように沢山のキャンドルが並んでいて、ゆらゆらと揺れる炎が正面の祭壇を浮かび上がらせていた。そして祭壇の背後には優しげな顔をしたマリア像が立っていて、その後ろの壁には実に見事なステンドグラスが飾られていた。
特にクリスチャンでもない二人ですら、何か敬虔な気持ちにさせられ、そのまま吸い寄せられるかのように祭壇の前まで来て立ち止まる。

「・・・なにか、緊張しますね」

そう言ってマリア像を見上げて思わず表情を引き締める

「そうだな・・・俺もだ」
「部長もですか?」
「・・・・・・意外か?」
「え、あ、ごめんなさい!でも・・・いつも通り冷静に見え――――っ!」

いきなりグッと頭を引き寄せられたかと思ったら、広い胸に耳を押し当てられた。
すぐに手塚の鼓動がハッキリ聞こえた。自分と同じようにちょっと早い、それでいていつまでもこのままでいたくなるような心地よい音。

「・・・これでも冷静と言うのか?」
「・・・・・・・ごめんなさい」

頭を抑えていた手塚の手が緩んだので、顔を上げた。
2人の時には見せてくれる穏やかな優しい瞳。その視線を受け止めながら、今目の前にいる大切な人と出会えた事に心から感謝したい気持ちで一杯だった。そして、こんな自分といてくれる手塚にも。
そしてふと、今日は皆に驚かされてばかりで、大切な事をすっかり忘れていたのを思い出した。カバンの中の、前から用意していたプレゼント。
はおもむろにカバンの中をゴソゴソと探し、スッと手塚に差し出す。

「あ、あの部長・・・メリークリスマスです」
「・・・ありがとう。開けてもいいか?」
「あ、は、はい!」

差し出した時ほんの一瞬目を丸くしたが、すぐに嬉しそうな微笑を浮かべた。そして綺麗にラッピングされた包みを開ける。
そんな様子を見ながらも、の心臓はさっきから高鳴ったままだった。

(・・・部長、最近表情が豊かだよね・・・。凄く自然だし・・・。こんな顔いつもされたら私どうにかなっちゃいそうだよ・・・)

の目の前で手塚は丁寧に包みを開けていく。そして出てきたものは、鮮やかな青色のマフラー。

「・・・これは、手編みなのか?」
「は、はい、そうです。・・・・ヘタでごめんなさい・・・・」
「・・・・・・・・」
「あ、あの・・・・部長?」

マフラーを見ながら黙ってしまった手塚に、気に入らなかっただろうかと不安になる。

「それで最近ずっと眠そうにしていたのか」
「え?!あ、その・・・気付いてたんですか?」
「無論だ。いつも見ているからな」

ボンッ!!と音が聞こえそうなくらい一瞬にして顔を赤くさせた
手塚のセリフで今日は何度赤面させられただろうか・・・そして何度嬉しい思いをしたか・・・。
そんなの頭にポンと手が置かれる。

「あまり無理をして欲しくはなかったが、それが自分の為にだと思うと・・・・・・正直嬉しいものだな。ありがとう、大切に使わせてもらう」

そんなセリフと共に、早速自分の首にマフラーを巻く。
鮮やかな青はレギュラージャージの色。手塚が常に身に纏っていた色。
には、その青は手塚の為にあるかのように思えていた。これほど似合う人もいないと心底思い、思わず溜息が漏れた。

「・・・どうかしたか?」
「いえ・・・部長はやっぱり青が似合いますね。・・・私、大好きな色なんです」

そう嬉しそうに答えたより、更に嬉しそうに手塚が微笑む。

「そうか・・・それは良かった」
「?」

「何がですか?」と訊ねようとした瞬間、手を掴まれた。
手塚はコートの右ポケットから何かを取り出して、それを掴んだの手のひらにそっと乗せる。

「メリークリスマス」

の小さな手のひらに収まるくらいの小さな箱。とても上品なラッピングは高級感が溢れていた。

「これ・・・・」

思わず伺うように手塚を見上げるが、手塚はただ黙って、優しい視線で開けるよう促すだけだった。
少し震える手で包装を解いていく。出てきたものは一目でアクセサリー類が入っていると分かる箱。そっと蓋を開けて、は息を飲んだ。
シンプルだがとても可愛らしいデザインのプラチナリング。1つだけはめ込まれている石は透明感ある青。アクアマリン。

「・・・こういうものには疎いから、何がいいのか分からなかったんだが・・・この優しい色を見た瞬間、お前の顔が浮かんでな」

手の上にある指輪を見つめたまま固まっている。手塚はそっとケースから指輪を抜き取ると、の左手をとり薬指にはめた。

「――――やはり少し大きかったか」

どう見てもブカブカの指輪。自分の詰めの甘さに思わず苦笑する。

「すまない。明日にでも直しに・・・」
「いえ!このままでいいです!」
「しかし・・・」
「・・・いいんです。だって初めて部長から貰ったプレゼントだから・・・」

涙で潤んだ瞳―――。瞬間、不二の家で見た表情と重なってしまった。
手塚はそんな動揺を抑えるかのようにを抱きしめた。

「―――――――そんな顔をするな。・・・帰したくなくなる」
「!?」

顔は見えないが真っ赤になっているだろう事は容易に推測できた。手塚はふと、頭上のマリア像に目を向ける。マリア像は2人を優しく見守っているかのようであった。
手塚は深く深呼吸した。今なら伝えられる。そんな気がした。

「そのままで聞いてくれるか?」

腕の中でコクリと頷くを見て、そのまま続ける。

「俺は春には卒業だ。そしてどこまで行けるか解らないが、テニスで勝負していきたいと思っている。・・・しかしそうなると、おそらく海外を飛び回る事になるだろう」

の体が強張ったのが伝わってきた。手塚は抱きしめる腕に力を込める。

「今はまだ無理だが・・・・・・約束して欲しい。俺がするまで―――他の誰からのプロポーズも受けない、と」

そう言って、抱きしめている腕を解き、の肩に手を乗せる。
の顔を見たい。今彼女はどんな顔でこの言葉を聞いたのか・・・・・・それは手塚の不安の表れだった。

「・・・返事を聞かせてくれないか?」

ビクッと小さな肩が震えた。そして、意を決したようにゆっくり顔を上げる
視線が絡む。
頬は赤みが差していて、大きな目からは涙が次々と溢れてきて、とても止まる気配はなかったが、その瞳からは戸惑いと一緒に、嬉しさも見て取れた。

「わ・・・私で・・・いいんです・・・か?」

涙のせいで声が震える。それでもきちんと手塚に向かい合って答えようとする。そのすべてが愛しいと思った。
そしてその言葉にフッと肩の力が抜ける。手塚は自分で思っていた以上に緊張していた。

「お前で―――でないとダメだ。言っただろう?誰であろうと渡す気はないと」
「・・・部長・・・」
「名前を・・・呼んでくれないか?」
「・・・・・・く、国光・・先輩・・」
「先輩は必要ない」
「――――――く、くにみ、つ、さん」
「呼び捨てでいい」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、く、国光・・・」

真っ赤になって必死に自分の名を言おうとする様子をいとおしげに見つめる手塚。
その視線を受けて、更にの心臓は苦しいくらい早鐘を打っていた。
驚き、嬉しさ、戸惑い、不安、幸せ――――今日1日で、一体いくつの感情が自分の中を駆け巡って行った事か。本当に魔法にかかったような日だとは思った。

手塚は、ポロポロとこぼれるの涙を大きな手で拭うと、そのまま顎へとかけ軽く上へ向ける。1つになった影は、キャンドルの炎に照らされていつまでも揺れていた。




祝福するかのように、空から雪が舞い降り、教会の鐘が静かな夜に鳴り響く。
時計の針は12時。
にかかった魔法は解けて消える事はなかった。










――――――そして、2人が交わした約束が叶うのは、もう少し先の話。
















…after that

…Seigaku member of after that
















言い訳部屋行く?