は1人、見事な星空を見上げていた。
―――2人歩いたこの場所で。










wish to a star 〜七夕の夜に










年に1度しか逢えない織姫と彦星。誰もが知っている話。
中国の伝説が起源だと言われているが、日本にもすっかり定着していて、それぞれの土地の信仰や風土によって色々な説話がある。
子ども心にも年に1度しか逢えないのが可哀相だと、雨が降らないで2人がちゃんと逢えて欲しいと、一生懸命てるてる坊主を作った事をふと思い出す。
今年は見事に晴れて、普段は見えないような小さな星までよく見える。

(・・・でも、この日に必ず逢えるという約束があるだけ、いいな・・・)

そんな事を思ってしまうのは、きっと自分だけだろう。

(「いつ」なんて確実な約束・・・ないもの)

降ってきそうな星空の下、遠く離れているあの人を想う。
今いる場所は、2人でよく来た、都心から少しはなれた緑の多い高台の公園。
登山が趣味と言うだけあって、自然に囲まれてリラックスしているのか、とても穏やかな表情を初めて見たのも―――この場所だった。
は1人になってからも、何かある度に無意識にここに足を運んでいた。
あの人と繋がっている空に、少しでも近い、思い出あるこの場所に。

空の上にいる2人に思わず嫉妬しただったが、逢えない寂しさを募らせる日々は、きっと自分と同じだろうと思い直す。

(ごめんなさい。・・・無事逢えたよね?たった1日でも、ずっと逢えないより・・・いいよね?)

の視線の先で、流れ星がほんの一瞬光の筋を描いて、消える。

(・・・私も・・・・・・逢いたいよ)

テニス部のメンバーから「元気にしてるかなぁ?」「何してるだろうね?」等の問いかけは何度もあったが、誰1人「逢いたい?」とは聞いてこなかった。

「そんな当たり前の事、聞かなくても分かるでしょ?」
「だよねんっ!」

不二と菊丸が話しているのを偶然耳にしてしまった時、気を使ってくれている皆の優しさに涙した。

だから今まで誰の前でも、1度も口にしなかったこの想い。
口にしたら想いが溢れだして、とても耐えられそうにないのが分かっていたから。
でも心の中では一体何度叫んで来ただろう。
今も、痛いくらいのこの想いに囚われながら、ずっと夜空を見上げていた。
まるで自分達の代わりに逢ってくれているような2人に、祈るような気持ちで。









背後から突然かけられた声に、驚きのあまり身体が動かなくなる。
聞き間違えるはずのない、大好きな人の声。

―――自分の名前を呼ぶ声。

突然の出来事に強張ってしまったの身体は、振り向くことも出来なかったが、不意に力強く抱き締められ暖かい腕に包まれて、少しずつほぐれていく。
しかし、落ち着く身体とは正反対に、鼓動は激しさを増していった。

「帰ったぞ」

その一言に今までの想いが堰切って溢れだし、言葉にする事も出来ず、ただ、涙が頬を伝う。

「・・・言ってくれないのか?」

顔は見えないけれど、整った顔に少し寂しそうな表情を浮かべて眉根を寄せているだろうと、はまぶたの裏で思い描いた。
そして、うるさい心臓を落ち着かせようと静かに深く深呼吸して、やっとの思いで待ってくれている返事を返す。

「・・・おかえりなさい」
「あぁ。・・・ただいま」

自分を抱き締める腕が緩んだと思ったら、180度向きを変えられて視線が絡み合う。

目の前に、ずっと、ずっと逢いたかった人。

まだ夢見心地で、心もとない。
は確かめるようにゆっくり、消えてしまわないように、恐る恐る手を伸ばす。
つと指先に触れた頬の温かさ。ノンフレームの眼鏡の冷たさ。スッと通った鼻筋。
ひとつひとつ確かめる度に新たな涙を誘われて、の大好きな微笑が滲む。

「・・・っ、・・・たかった。逢いたかったです」
「・・・俺もだ・・・」

震えながら初めて口にした言葉。
抑えていた色んな気持ちと一緒に溢れる涙は、止まる事を忘れてしまったようだった。
手塚はいとおしげにを見つめながら、大きな手で流れ落ちる涙を拭い、そのまま頬へと添えた。

「・・・もう離れない。もしまたどこかへ行く時は・・・・・・お前と一緒だ」

星明かりだけで出来た影は、そっと1つになる。
離れた場所で同じ様にお互いを想い募っていた2人の気持ちも、やっと1つになった。
その想いは溢れ出し、柔らかな空気となって夏の夜空に溶けていくようだった。






願い事以上の贈り物をした空の上の2人は、手を取りあって優しい眼差しで静かに2人を見下ろしていた。
















言い訳部屋行く?