きっと

手を伸ばせば届くところに

あなたはいる





−skyward−




『お元気ですか?体調崩してない?
‥‥なんて、手塚に聞くのは愚問かな?私もみんなも元気です』





「おはよう

「あっ!おはよう乾。今日は早いね」

「ああ。ちょっと打ちたくなってね」

吐く息が白い朝

いつもはもう少し乾が来るのは遅いのに

珍しく朝、一緒になった

「引退してから体、鈍ったんじゃない?」

「そうだな。今は受験勉強の息抜き程度でしてるだけだし」

「でも、データーテニスはまだ健在でしょ?」

そう言ったら

乾は軽く笑う

「テニスはやめたわけじゃないからね。
それに、手塚が戻ってきたとき、今度こそ勝たせてもらうつもりだから」

乾にとって

手塚は最高のライバルなんだと思う

昔も今も

それは手塚にとっても同じことでしょう?

「そうだね‥‥手塚も今ごろ打ってるのかな?」

「いや、宮崎は雨だからトレーニングでもしてるんじゃないか?」

「‥‥天気予報まで知ってるんだ」

「データーは取っておいて損はないよ」

「何のデーターよ」

クスクスと笑うと乾も

そうだな

と、笑う

ほんとは知ってるんだよ

乾が手塚のこと気にして九州の天気まで知ってること

だって

それは私も同じだから

九州にいるあなたのこと

少しでも知りたいって思うから

「ね!一人で打つのもつまんないでしょ?
私と打とうよ!マネージャーでも少しはやるのよ?」

「‥‥‥」

「‥‥嫌なの?」

「‥‥いや‥‥まあ、いないよりましか」

「乾!!」





『乾は相変わらず打倒手塚!って感じかな。
戻ってきて、ぼろぼろにやられるなんてことないようにねv』





「ちょっ!!女の子相手に高速サーブなんてずるい!!」

「手加減しなくていいって言ったのはだろう?」

「だからって本気にするなんて!!」

膝に手をついて上がった息を整える

どこが体が鈍っただ

この嘘つき

全然、引退する前と変わらないじゃない

「珍しい組み合わせだね」

「不二!!」

不二の手にもラケットがあって

はにこりと微笑む

「不二も打つために早めに来たの?」

「僕は桃たちの様子を見ようと思ってきたんだ。
まあ、その前に軽く打とうかと思ってたんだけど‥‥」

「じゃあ私と交代!乾の相手なんてもう出来ないよ」

挙げた手に

不二の手が重なって

乾いた音を立てる

は浮気?」

「‥‥は?」

ラケットでボールをもてあそびながら

不二は言葉を続ける

「だって乾と二人でいるなんて」

からかってるの分かってるんだから

いつもの楽しそうな顔

「朝、会っただけよ。私は手塚一筋だもん」

「ふーん‥‥心配にならないの?」

「なにが?」

「手塚が浮気をしない‥‥か!」

言葉の語尾が強くなったのは

不二がサーブを打ったから

相変わらず綺麗なフォーム

「浮気するくらいならあの人は別れて欲しいってちゃんと言うわよ」

「堅物だからね」

「おまけに無愛想で仏頂面」

「でも好きなんでしょ?」

「でも好きみたい」

ボールはコーナーをついて乾のコートに入る

「不二も全然鈍ってないね」

「そうかな?自分では鈍ったと思うけど」

乾からボールを受け取って

不二は構える

「あ、そうだ。さっきの手塚帰ってきたら伝えとくね」

「え?なにを?」

「無愛想で仏頂面」

「そ、そこだけ伝えたら誤解されるじゃん!」





『不二は絶対に私をからかって楽しんでる!!
手塚、戻ってきたらグランド100週!って言ってぎゃふんと言わせてよう。
私じゃ‥‥彼には敵わないんだもん(><)』





「おら一年!声が出てねーぞ!!」

「「はい!!」」

朝練がはじまって

桃の声がコートに響く

最初は違和感があったけど

今は慣れたかな

「‥‥先輩?」

「あ。薫ちゃん!‥‥今は海堂副部長かな」

「‥‥いいっすよ。そんな改まらなくても」

「じゃあ薫ちゃんで!」

「‥‥何してるんっすか。こんなとこで」

薫ちゃんがそういうのも無理はない

私がいるところは

木の影になってるところで

乾や不二は中に入ったのに

私だけは中に入らなかった

「‥‥ちょっとしたこだわり」

「?」

「‥‥今度コートに入るときは手塚と一緒に入りたいの」

「‥‥‥」

だから

さっき乾たちと打ったときも

中のコートを使わなかったんだ

「約束したんだ。このコートに戻ってくるって。
だから、その時までは待つの‥‥。ごめんね」

「いえ‥‥。部長、早く戻ってくるといいっすね」

「うん!薫ちゃんも早く戻ってきて欲しい?」

そう言ったら

薫ちゃんは困ったように瞳を揺らせて

うつむいて呟いた

「‥‥部長は俺にとって憧れっすから」

自分のことを言われたわけじゃないのに

すっごく嬉しくなって

「薫ちゃん。部活いいの?」

「あ‥‥!失礼します!」

薫ちゃんの姿を見送った瞬間に

涙が零れた





『薫ちゃんは本当に副部長としてよくやってるよ。
手塚のこと、憧れって言ってくれたんだ。
私のことじゃないのに嬉しくて泣いてしまいました』





!!」

教室のドアのとこから声が聞こえて

「タカさんだ〜。久しぶり!」

久しぶりに会ったタカさんのとこに駆け寄る

「クラス違うし部活ないとなかなか会う機会ないもんな」

「だね。今日はどうしたの?」

「ああ。不二に参考書借りる約束してたんだけどどこ行ったか知らないかな?」

「不二?そういえば菊ちゃんもいない‥‥」

「まいったな‥‥」

「戻ってきたら伝えといてあげるよ。
それよりタカさん。おうちの修行の調子はどう??」

「なかなか親父が厳しくてさ。
握り方1つで毎日怒られてるよ」

タカさんは部活を引退してから

本格的にすし屋の修行を始めた

高校ではテニスをしないかも知れない

そういわれた時、すっごく淋しかったな

「‥‥なあ

「ん?」

「手塚が戻ってきたらさ、うちでまた騒ごうな」

「‥‥うん!その時はタカさんが握ってよね」

「ははは。責任重大だな」

「大丈夫。わさび多めに入れても私が許す。
手塚の泣き顔、見てみたいもの」

「そうだな。たまにはいいかもな。
手塚‥‥もうすぐ帰ってくるよな」

「うん‥‥すぐだよ。きっとすぐ」





『タカさんがね、手塚が戻ってきた時はお祝いをしようって。
もちろん河村すしで!タカさんが握ってくれるんだよ!
楽しみにしててね。それはもういろいろと‥‥』





授業中

こんこんとつつかれた肘

「?」

視線を向ければ

隣の菊ちゃんが先生に見付からないようにノートを見せてくる

『昨日、手塚からメールの返事が来たんだ』

私もそっと自分のノートを菊ちゃんの方に寄せる

『手塚、なんて?』

『それがひどいんだよ!手塚は受験勉強しなくていいなっていったらさ
つらつらとお説教じみたこと送ってきたんだ!』

思わず顔がにやける

なんとなくその文章が分かる気がするんだもん

『手塚らしいじゃない。それに、手塚だって受験あるんじゃないの?』

『そうなの?』

不思議そうに菊ちゃんは視線を向けてくる

あるに決まってる

だって

『手塚は同じ高校にいくんだもの』

まあ手塚は普段からちゃんとやってるから

特別勉強することなんてないのかも

また肘をつつかれて

移した視線

「あ‥‥」

思わず声が漏れてしまった

だって卑怯だよ

そんなこと書くの

『手塚、と同じ高校に行くって書いてたよ。
俺たちも一緒なのにって強調して』

悔しいから

菊ちゃんの頭を殴ってやった

「イタッ!何するんだよ!!」

「ばっ‥‥!」

時、すでに遅し

「‥‥菊丸、。問2、問3それぞれ答えてみろ」

「「はい‥‥」」

お互い目を合わせて

クスクス笑ってしまった

だって

先生の表情

手塚の不機嫌顔とそっくりだったんだもん




『菊ちゃんとね、席が隣なの。
楽しんだけどどうしても遊んじゃって先生に怒られちゃった。
でも、ちゃんと勉強はしてるんだよ?手塚と同じ高校行きたいもの』





お弁当を持って

開けた屋上のドア

眩しい光の中で

一人発見

「越前も今からお昼?」

先輩。先輩もっすか?」

「うん。ご一緒させていただいてもいいかしら?」

「どうぞ」

「どーも」

ちょこんと横に座れば

少し上にある視線

「‥‥なんすか?」

「いや‥‥越前また身長伸びた?」

「一日牛乳二本っすから」

吹き出しそうになるのを我慢我慢

何だかんだいって

ちゃんと乾のアドバイス聞いちゃって

ここで笑ったら不機嫌になるから

何とか我慢

先輩」

「ん?」

「玉子焼き欲しい」

「しょーがないなあ。いいよとっても」

「へへっ、サンキュ」

なんだか

餌付けしてるみたいでかわいい

先輩料理うまいよね」

「そうかな?まあいちお得意なほうだし」

「‥‥部長にいつも作ってきてたんですよね」

「うん。これくらいしかやつに敵うのはないからね」

「‥‥部長って贅沢もんっすね」

玉子焼きを放り込んで

越前はお気に入りの飲み物で喉を潤す

「手塚が贅沢者?」

「だって毎日こんなうまいの食べてたんでしょ?」

「まあ私が好きでやってたんだけどね」

最初のころは失敗作もあって

それでも手塚は黙って食べてくれた

感想こそあんまり言わないけど

ちゃんと残さず食べてくれるのがおいしいのかわり

「‥‥部長が帰ってくるまで俺が味見してあげましょーか?」

「ナマイキ。間に合ってます」

「ちえっ」

「‥‥ねえ越前」

「はい?」

風が吹いて

私の視界が髪で消える

だから越前の表情は読み取れなかったけど

「青学の柱、ちゃんとなれる?」

「‥‥部長との約束っすよ?
破れるわけないじゃないっすか」

そういいきった声が

しっかりしてて

愚問だったなって思った

「そうだよね。越前なら大丈夫だよね」

「あたりまえっすよ」

ほんと似てるんだから

その自信過剰なとこ

嫌いじゃないけどね





『越前はほんと手塚に似てきたんだから。
だからきっと大丈夫。手塚の判断間違ってなかったよ。
越前なら青学の柱になれるって私は思うの』





放課後

帰るときに見えたレギュラージャージ

「桃っ!!」

「うわっ!!」

後ろから声をかけたことで

桃は驚いたような声をあげる

先輩!驚かさないでくだいよ!」

「あはは!だって桃、深刻な顔してるんだもん」

「‥‥そんな顔してたっすか?」

「してた」

そういうと

桃は苦笑をする

「‥‥何か悩み事?」

「やー。先輩に言うのもあれなんすけど‥‥」

「?」

「‥‥俺、ちゃんと部長できてるのかなって」

「え?」

「や、もちろん精一杯やってるんっすよ?
でも、どうしても部長のようにまとめれなくて‥‥マムシと衝突したり‥‥」

正直

驚いた

桃がそんなこと悩んでいただなんて

「‥‥手塚も最初は完璧じゃなかったよ」

あの頃の手塚は

弱音こそはかなかったけど凄く悩んでたはず

「ねえ桃。手塚にならなくていいんだよ?」

「え?」

「桃は桃。手塚は手塚。違う人だもの。
同じやり方じゃなくていいの、桃は桃のやり方でいいの」

「‥‥‥」

「私、今のテニス部いい雰囲気だと思うよ。
でも桃が何かにつまったら薫ちゃんに相談してみたら?
桃にかけてるとこ、薫ちゃんがちゃんと持ってるから」

だから手塚は

薫ちゃんを副部長にしたんでしょう?

「衝突してもいいじゃない。本音でぶつかって答えが出れば」

「‥‥そうっすね」

「そうだよ」

「おっしゃ!なんかやる気出てきた!」

そういって笑った桃は

すっきりした顔で

「‥‥じゃあ私帰るね。部活頑張って、桃城部長」

「はい!ありがとうございました!!」

「そうそう。桃はそうでなくっちゃ!」

先輩」

「ん?」

「部長には内緒にしててくださいね。
戻ってきた時にグランド100週はいやっすから!」





『桃もいろいろ思うとこはあるみたいだけど、ちゃんと頑張ってるよ。
手塚の背中追ってるだけじゃない。自分で歩いてると思う。
あの調子なら安心してテニス部を任せていけるね』





校門のところに行くと

こっちに手を振ってる人影があって

「大石!」

慌てて駆け出した

、一緒に帰らないか?」

「うん。でもどうしたの??」

歩調をあわせて歩く帰り道

大石は上機嫌なようだ

つられてこっちまで笑顔になる

「何かいいことあった?」

「ん?そうだな‥‥になら言ってもいいかな」

「嘘ばっかり」

「え?」

「私に言いたくて待ってたんでしょう?」

「ははは!お見通しか」

大石とはバスと歩きということで

バス停で別れることになる

「‥‥実は昨日、おじさんから電話があったんだ」

「おじさん?」

「ほら、手塚が見てもらってた医者の」

「ああ!」

私も何度か会ったことがある

手塚が肘を壊した時

大石と一緒についていったから

「おじさんさ、昨日手塚の病院に電話したらしいんだ」

「え‥‥」

「担当医と話をしたらしいんだけど」

何だか緊張して

肩にかけてた鞄の紐をぎゅっと掴んだ

「‥‥手塚、かなり調子いいみたいだよ」

「ほんとに‥‥?」

「ああ。もうすぐ‥‥戻ってくるかもしれないな」

「‥‥うん」

ぎゅって唇をかんだ

今日ね

みんなと会って話をして思ったの

ほんとに手塚が大きな存在だって

みんな

手塚が大好きなんだって

?」

「‥‥誰にも言ったことないんだけどさ」

「うん?」

「‥‥手塚に‥‥会いたい」

「‥‥もうすぐだよ」

「うん。今日、メールに書いてみようかな」

「え?」

「私、手塚にも言ったことないの。会いたいって。
言ってもいいかな?手塚の重荷にならないかな?」

そう言ったら

大石は笑って

「大丈夫だよ、手塚も嬉しいはずだから」

と、言ってくれた

だから‥‥





『大石ね手塚の腕の調子がいいこと自分の事のように喜んでたよ。
もう嬉しくて仕方がないって顔してた』





手塚はからのメールを見て

ふっと目を細めた

テニス部メンバーの様子が目に浮かぶようだ

ただ気になったのは

彼女のことが書かれていないこと

スクロールバーを下へとずらしていく





『みんなも待ってるからちゃんと腕を治して早く戻ってきてね。
ただし無理はしないこと。約束だからね!
ではではまたメールします。じゃあね』





少しの空白の後に

一行だけの言葉





『でもね、今すっごく手塚に会いたい。の本音でした』





もうすぐ

もうすぐ会いに行くから

ぎゅっと握り締めた拳

この手で彼女を抱きしめるのまでもう少し

だから





『待ってろ。必ず戻るから』

















Thank you 50000Hit!!



やっぱり手塚のお話となりました。

ヒロインだけじゃなくてみんなも手塚が帰ってくるの

すっごく心待ちにしてると思うんですよ。

つい口にした会話にも出てくる手塚の存在

それくらい大きなものだと思ってます。

早く帰って来い!手塚!!
















お世話になっている紅咲奈緒さんのサイト『sugar box』の50000Hit記念でフリー配布されていたのを頂いてきました。
奈緒さん、いつも素敵なお話ありがとうございます!そして改めまして50000Hitおめでとうございます!

・・・読んでいて泣けてきました・・・。うわぁ〜〜ん手塚〜〜〜!(号泣
会いたいよぉ〜〜〜!寂しいよぉ〜〜〜!(涙。ホント一日も早く帰ってきて欲しいです。