こんなプレゼントでも
たまにはいいんじゃない?
for you‥‥
『あ、もしもし手塚?久しぶり』
いきなりの電話は
丁度、出かけようとしてたときだった
「不二か。どうしたんだ?いきなり」
『ちょっとね。それより手塚、今度の土曜用事ある?』
「土曜?いや、何もないが‥‥」
空になったカップを流し台へと置く
コトンという音と
不二の声が重なる
『じゃあ土曜は一歩も家から出ないでね』
「‥‥は?」
『僕たちから荷物を送ろうと思ってるから。
何個か別で発送するから別々に届くと思うんだ』
「な、なぜ別々に?」
『だからちゃんと家にいてね。じゃあ用件はそれだけだから』
「あ、おい!」
電話の向こうでは
もう不二の声はしない
呆然としたまま電話を切る
「‥‥なんなんだあいつは」
九州に肩の治療に来てかなり経つが
今のような意味不明な電話は初めてだ
切った携帯の時間を見て
慌てて家を出る
電車に間に合わなかったら
不二のせいだと心の中で悪態つきながら‥‥
「‥‥うまくいった?」
心配そうに覗き込むに
不二はにっこりと微笑む
「うん。手塚、土曜は家にいるって」
「ほんと!?よかった〜」
彼がいなきゃ意味がない
「かなり不信がってたけどね」
「やっぱり?でも、ばれちゃ面白くないもんね」
お互い目を合わせて
くすくすと笑い出す
「手塚、喜んでくれるかな?」
「喜ばないわけないじゃない」
不二の言葉に嬉しそうに頷くと
は携帯で手塚にメールを送る
『土曜の贈り物、楽しみにしててね!』
土曜の朝
最初にチャイムが鳴ったのは少し遅めの朝食をとってる時
最初の荷物は菊丸から
小さな段ボールの中には洗面用具
「‥‥?」
思わず眉をひそめてしまう
確かに消耗品ではあるが
わざわざ送ってくるようなものではない
「‥‥もしもし、菊丸か?」
『わ〜手塚じゃん!ひっさしぶり!』
「ああ‥‥。さっき荷物が届いたんだが‥‥」
『もしかして俺が一番乗り!?』
「ああ‥‥。それよりなんなんだこれは」
『なにって‥‥歯磨きセットとその他、洗面用具だよん』
そんなのは見れば分かる
箱の中には歯磨き粉、コップ、歯ブラシ‥‥
「‥‥なぜ洗面道具なんだ?」
『ん?だって絶対いるもんじゃん』
「そうだが‥‥」
『絶対使うものだから邪魔にはならないだろ?
それよりさ!手塚、調子どうなの??』
「ああ。かなりいい。
もうラケットを握ってもいいようになったしな」
『まじで!?よかった〜。ちょっと安心したにゃ。
この前、氷帝戦のビデオ、見てたんだけどさ‥‥』
氷帝戦
俺が無茶をして肩を壊すことになった試合
結果はどうにしろ、あのまま戦ったことは
今でも後悔していない
『‥‥泣いちゃってさ。必死にこらえてたんだけど』
「が?」
思わずその名前にぐっと胸が痛む
名前を聞いただけで会いたくなる
『手塚、に会ったらちゃんと大丈夫だって言ってやれよな。
一番手塚のこと心配して、帰り待ってるのなんだからさ!』
「‥‥ああ、分かってる」
『ならいいや!じゃあまたにゃ』
「ああ。ありがとう」
『うんうん、気にすんなって!じゃあね〜』
ふっとため息をついた
名前を聞くだけで動揺してしまうなんて
相当重症なようだ
それから一時間も経たないうちに鳴るチャイム
「今度は河村と乾か」
二人からの荷物はクール宅急便で来たから
中身が食べ物だということは直ぐ分かる
「‥‥ま、まさか乾汁じゃないよな」
思わず一瞬、開けるのを戸惑って
そっと箱を開ける
中からは海産物や野菜
どうやら乾汁は入ってないようだ
‥‥材料は入ってる気もするが
♪♪♪
こちらからかけるよりも早くかかってくる電話
ディスプレイには『河村』と出ている
「もしもし」
『やあ手塚!元気かい?』
「ああ。そっちはどうだ」
『みんな相変わらずだよ。それより荷物届いたかな?』
「ああ、丁度今届いた」
『乾の言うとおりだったな。
今頃手塚のうちに届いたから電話かけてみたらって言われたんだよ』
乾‥‥
これもデーターどおりなんだろうか
『それ、いつもうちが仕入れてるとこのやつだから味は保障つきだよ』
「そうか‥‥しかし量が多くないか?」
どうみても一人分ではない
二人か三人分位だ
『そうかな?丁度いいくらいだと思うよ』
「‥‥‥」
『あ、乾が戻ってきたから代わるよ』
「あ、ああ」
『‥‥手塚』
「なんだ?」
『早く‥‥帰って来いよな。
その時は俺がお前の好きなもの何でも握ってやるよ』
「ああ‥‥楽しみにしてる」
『じゃ乾に代わるよ』
遠くでなにやら話し声が聞こえて
しばらくしたら乾が出た
『やあ手塚。無事届いたようで安心したよ』
「乾。これは鍋の材料か?」
野菜の中に混じっている
奇妙な材料が気になる
『ああ、それか。乾汁の材料としても使えるよ』
「‥‥鍋にしていただくとしよう」
『残念。まあ栄養あるからちゃんと取れよ。
それより肩の調子はどうなんだい?いい感じか?』
「ああ。心配は要らない」
『そうか。なら早くデーターを取らせてもらいたいものだな』
「楽しみにしていろ」
それは自分のほうかもしれない
乾やみんなとまたテニスをすることを
心待ちにしているのは‥‥
『まあ俺としては手塚がに会った時のデーターも取らせて欲しいけどね』
「‥‥そんなもの取ってなんになる」
『いいデーターになるよ。手塚の弱点とかね』
電話越しに聞こえる笑い声
たしかに彼女は俺の弱みかもしれない
だが
それを人にさらす気はない
「‥‥勝手にしろ。もう切るぞ」
『まあ会うときは俺の見てない所にするんだな。
じゃあな手塚。試合できる日、楽しみにしてるよ』
「ああ」
乾が言うのは確かかもしれない
きっと会った時
俺は力の限り彼女を抱きしめるだろう
たとえ誰がいようとも‥‥
それから10分もたたないうちに
またチャイムが鳴る
今度は大石からだった
中を見て彼らしさに笑いがもれる
「もしもし、大石か?」
『手塚!まさか電話がかかってくるとは思わなかったよ』
「さっき荷物が届いたんでな」
『そうか。無事届いたようで安心したよ。
どれも今の手塚には必要なものじゃないかと思ってね』
届いた荷物は
俺がいない間のビデオで
『手塚、ほんとは気になってたんじゃないのか?
青学がどんな戦いをしてきたか。越前がどう成長したか』
おもわず笑いがもれたのは
図星だったから
本当は気になって仕方なかった
だけど
同時にそれを見ると
テニスが出来ない自分に憤りを感じてしまいそうで
怖かった部分もある
「‥‥大石にはお見通しのようだな」
『当たり前だろ?長い付き合いなんだ』
「そうだな」
『それに‥‥俺もお前と同じ夢を持ってるんだ。
もし、俺がお前の立場ならきっと気になって仕方ないだろうからな』
「‥‥すまないな、大石」
『何言ってんだ。それに‥‥』
「?」
『まだ、夢は終わったわけじゃないだろ?
手塚抜きの全国制覇なんて考えられないからな』
「大石‥‥」
夕日に誓った夢
それは
まだ、終わることなく
明日へと続いていて
『だから、ちゃんと戻って来いよ』
「ああ」
『部長はお前しか務まらないんだから』
「‥‥‥」
まだ終わらない
終わらせない
『あ、そうそう別のコートでやっていた他校の試合のビデオだけど、
俺じゃなくて適任の人が持ってるから今回は入れてないから』
「適任?乾か?」
『まあその人にまた見せてもらってくれ。
じゃあ手塚、俺そろそろ出かけなくちゃいけないんだ』
「あ、ああ。悪かったな、引き止めて」
『いやかまわないよ。元気そうで安心したし』
「大石」
『ん?』
「‥‥もうしばらく、青学を頼む」
『‥‥わかってる。もうしばらく頑張るよ』
もう少しだけ
君の居場所を守るから
だから
『早く帰って来いよな手塚。
お前抜きの青学なんて青学じゃないんだから』
「ああ」
『じゃあまた。体に気をつけろよ』
「ああ、ありがとう」
電話を切って初めて
自分の手に力が入ってることに気がついた
自分で思ってる以上に
俺は
早く青学に戻りたいようだ
よく考えてみれば
こうやって何もしないで何かを待つというのは久々かもしれない
入れたコーヒーが後一口という時に
チャイムが鳴る
差出人の名前を見て
この組み合わせは珍しいななどと思う
さて
誰に電話をかけるか‥‥
まあ、迷うまでもないか
「もしもし海堂か?」
『部長!‥‥あっ!』
「?」
『もしもし桃城っす!部長〜なんで海堂の電話にかけるんすか〜』
「‥‥‥」
『桃城てめー返しやがれ!!』
『うるせえよマムシ!!』
こうなることが分かっていたから
桃城の電話にかけなかったのに‥‥
『‥‥もしもし部長?』
「‥‥越前か。いつもああなのか?」
『そんなの前からじゃないっすか』
後ろで二人の騒ぎ声で
越前の声が聞こえにくい
「‥‥とりあえず荷物が届いたからその連絡だけだ」
『あ、届いたんだ。みんなの届いたんすか?』
「いや‥‥全員ではないが‥‥」
『‥‥ふーん。まだなんだ。
それより部長、腕はどうなの?体鈍ってんじゃないの?』
「余計な心配だな」
『ならいいや。俺、今度は負けないから。
ブランクなんて言い訳しないでよね』
「その前に俺も負けるつもりはない。‥‥越前」
『なんすか?』
「青学の柱に相応しいか俺に示してみろ」
『‥‥上等。だったらあんたも早く‥‥うわっ!』
「えち‥‥?」
『部長〜。何で勝手に越前と話してるんすか〜』
『桃城いい加減にしろ!俺の携帯だぞ!!』
「‥‥‥。桃城、海堂」
『はい?』
大きく息を吸い込んで
「グランド100週!!!」
何度も言いなれた
最近言ってなかった言葉を放つ
聞こえてきたのは
不満の声じゃなくて
笑い声
「‥‥何を笑っている」
『いや〜久しぶりに聞いたもんだから』
「‥‥100週では足りないか」
『げっ!充分っすよ!!だけど‥‥』
「?」
『今度は生で言ってくださいよ部長』
『‥‥部長のそれがないと張り合いがないっす』
思わず
声が出なかった
『まあ部長が戻ってきたときは言われないくらいに成長してるんで!』
『‥‥どこがだ』
『なんだとマムシ!!てめーちょっと来い!!』
『上等だ!!』
当たり前だった日常を
当たり前だったと思っていたのが
自分だけではなくて
『‥‥愛されてるね部長』
「‥‥遠慮する」
『まあ‥‥俺でも遠慮すると思うけど。
あ、フリーコート開いたみたいだから‥‥』
「ああ。次にお前と試合するのを楽しみにしてる」
『それはこっちの台詞。じゃあまたね部長』
「ああ」
ダンボールの中を見て
ふっと笑いがもれた
「‥‥俺はこんなゲームなどしないぞ」
箱に詰められたゲームは越前だろう
誰かを呼んで遊べということか?
たくさんのお菓子は桃城に間違いない
その中に
遠慮がちに入ってるお茶セットは海堂か
それぞれの性格が出てる贈り物に
目が細まる
「しかし‥‥なぜ二人分なんだ?」
二つの湯飲みに
二人でやるゲーム
一人では食べきれないお菓子
それが示すものは‥‥?
チャイムが鳴って
きっと不二かからの荷物だろうと思った
まだきていないのは
この二人のものだけだったから
「はい」
「‥‥宅急便です。サインお願いします」
何度も宅急便が着たから
ペンを直ぐとってドアを開けた
「お待たせしま‥‥」
ドアを開けて
みなの荷物の意味が分かった
菊丸が送ってきた歯ブラシが二本だった訳
乾と河村の食べ物の量が一人分じゃなかった訳
大石が適任がいるといった訳
越前のゲームが二人用だった訳
桃城のお菓子が大量だった訳
海堂の湯飲みが二つだった訳
「‥‥受け取って‥‥もらえますか?」
「当たり前だ!」
手を引き寄せて
力いっぱい抱きしめた
どさりと鞄が落ちて
の手が恐る恐るまわされる
まるで
確かめるように‥‥
「会いた‥‥かった‥‥っ!」
「ああ‥‥俺もだ」
伝わる体温が嘘じゃないと言う
声がここにいることを示す
手を伸ばしてドアを閉めて
もう一度、抱きしめた
ドアを閉めたのは
他の誰にも彼女を見せたくなかったから
「‥‥はめられたな」
「だって‥‥驚かせたかったの」
「‥‥今日、電話でお前の名前を聞くたびに会いたくて仕方なかった。
まさか‥‥本当に会えるとは思ってなかった。本気で驚いた」
「手塚が‥‥早く帰ってこないのが悪いんだからね。
だから‥‥我慢できなくて会いにきちゃったんだから‥‥」
背に回された手に力がこもる
「ほんとに‥‥会いたくて仕方なかったの」
「俺もだ。‥‥最高の贈り物だな」
そのまま上を向かせてると
濡れて光る瞳
ゆっくりと彼女が瞳を閉じたから
涙が一筋
零れた
『♪♪♪』
部屋に置きっぱなしだった携帯が音を立て
は恥かしそうに瞳を揺らす
「多分‥‥不二じゃないかな?
さっき、もう少しで手塚のとこに着くって連絡したから」
「そうか。とにかく上がってくれ」
「うん。お邪魔します」
きょろきょろと
嬉しそうには部屋を見回す
あちこちに散らばるダンボールがおかしくて
くすくすと笑いを漏れる
手塚が携帯を拾ってボタンを押すと
声の主は
今回の仕掛け人
『もしもし』
「‥‥今回の仕掛け人はお前だな?」
『やだなあ。僕一人じゃなくてもみんなも共犯だよ』
「でも、お前が首謀者だろう?」
『それは否定しないかな?
だけど、僕からの贈り物は手塚が一番欲しいものだったでしょう?』
電話越しに聞こえる笑い声
これで認めてしまえば彼の思うつぼなのだろうけど
「‥‥ああ」
そう答えずにはいられない
『‥‥あっさり認めるとは意外』
「嘘をついてもお前にはばれるからな」
『‥‥まあね。さってとお邪魔虫はそろそろ退散しようかな』
「‥‥っ!不二!」
『‥‥な、何?』
気の聞いた言葉が言えなくても
どんなに不器用でも
これだけは伝えたい
「‥‥ありがとう。俺は必ず戻る‥‥」
『‥‥どういたしまして。
だけど言う相手は僕だけじゃないでしょう?』
「ああ」
『ちゃんと伝えてあげなよ。
そこにいる君の一番大事な人にもね』
「分かってる」
『じゃあ‥‥またね手塚。
コートの上でラケット用意して待ってるからね』
「ああ。ありがとう」
自分がどんなに恵まれているか
離れてから気づくとは思わなかった
待っててくれる人がいる
帰る場所がある
それがどんなに幸せなことか
痛いほどに今、感じてる
「‥‥ね、手塚」
「‥‥ん?」
「みんな‥‥待ってるからね」
「‥‥ああ」
「おかえりなさいって言う日、楽しみにしてるから」
「ああ。俺は必ず戻るから‥‥待ってて欲しい」
最高の笑顔で
「うん!待ってる!」
最高の言葉をくれる君が
最高に愛しい
俺が戻る場所は
みんながいる
君がいる
あの場所
Thank you for 100000hit!!
こちらのお話は50000hitの「skaward」の続編となります。
いい加減待ちくたびれましたので会いに(笑)
もし、このお話の続編をまた書くことがあればその時は
帰ってきたときの話を書きたいななどと思ってたりします。
お世話になっている紅咲奈緒さんのサイト『sugar box』の100000Hit記念でフリー配布されていたのを頂いてきました。
いつも素敵なお話ありがとうございます〜!そして100000Hit、本当におめでとうございます!
・・・読んでいてまたしても涙が(号泣
部長!あなたのいない青学は青学じゃないっ!早く帰ってきて〜〜〜〜!!